2021年7月1日木曜日

その4

第2の違いは、ブロックチェーンの性格の違いだ。  ビットコインのブロックチェーンでは、どんなコンピュータでもマイニングの作業に参加することができる。これをパブリック・ブロックチェーンと言う。  それに対して、ディエムやCBDCの場合には、ブロックチェーンの運営に参加できるコンピュータは、運営主体(ディエム協会や中央銀行)が指定するものに限られる。これは、プライベート・ブロックチェーンと呼ばれる。  このような違いがあるが、ディエムやCBDCでも匿名性を実現することが可能だ。それを扱うワレットを承認する際に本人確認を厳密にしなければ、匿名性が実現できる。  上で指摘したように仮想通貨の場合には、CBDCも含めて、匿名通貨にするか否かは、政策判断の問題だ。  では、どちらが望ましいか?  プライバシーを重視する立場から言えば、本人確認を厳格にしないことが望まれる(中央銀行が発行する通貨を匿名にするのは奇妙だという意見があるかもしれないが、現在の中央銀行券は匿名通貨である。それと同じ性質のものにするというだけのことだ)。  そうすれば、ここから得られるデータは、個人と紐づかないビックデータとして用いることはできるが、個々人の行動は追跡することができないものになる。  ところがそうすれば、マネーロンダリング、不正蓄積資金の送金、あるいはテロリストの送金などに使われるという問題が起こる。これを防ぐためには、本人確認を厳格に行なうことが必要だ。  このいずれを重視するかは政策判断の問題だ。どちらも完全に実現することは原理的にできない。  1つの現実的な方法は、本人確認の厳格さと送金可能額を関連づけることだ。  少額の送金しかできないワレットに関しては、本人確認なし、あるいは簡単なものにする。それに対して、多額の送金も可能なようなワレットについては、本人確認を厳格にする。  つまり、日常的な少額送金については匿名送金を許すが、企業や組織による多額の送金の場合には、匿名性を許さないということだ。  公共性のためにプライバシーをどれだけ犠牲にしてよいと考えるか?  これが今後、検討されなければならない基本的な課題だ。 (一橋大学名誉教授 野口悠紀雄)

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