米国で新型コロナウイルスのワクチン接種ペースが落ち込む中、バイデン政権はネット交流サービス(SNS)上のワクチンに否定的な誤情報に神経をとがらせている。バイデン大統領がフェイスブックなどの対応が不十分だとして「人々の命を奪っている」と非難したのに対し、フェイスブックが猛反発するなど、相互不信が表面化している。
「ソーシャルメディアなどを通じて、前例のないスピードと規模で、新型コロナの誤情報が広がっている」。米保健福祉省のマーシー医務総監は7月15日に公表した報告書で警鐘を鳴らした。報告書は「ワクチンの誤情報に少し触れただけで接種をためらうようになる」との研究結果に触れ、SNS企業に対し「有害な情報への対応に責任を果たす」「誤情報の監視を強化する」など8項目の取り組みを要求した。
バイデン氏も16日、誤情報に関するフェイスブックなどの対応について記者団に問われ「人々の命を奪っている」と述べた。18歳以上のワクチンの接種完了率は59・5%に達したが、接種ペースがピーク時の1割程度に落ち込み、未接種者の間で感染力の強い変異株「デルタ株」の感染が広がって死者も増加傾向に転じたことが背景にある。
米主要メディアが当初、「フェイスブックが命を奪っている」との見出しでバイデン氏の発言を報じたことで波紋が広がった。フェイスブックのローゼン副社長は17日の声明で「事実は政権が流しているストーリーとは全く異なる。我々は信頼できる情報を人々に届けるのに貢献してきた」と反論。医務総監が要求した8項目も「我々が既に取り組んできたことだ」とはねつけた。
フェイスブックは米カーネギーメロン大などとの共同研究の結果として「ワクチン接種に前向きなフェイスブック利用者は70%(今年1月)から85%まで増えた」とのデータを紹介。「1800万件以上の新型コロナの誤情報を削除した」「330万人の米国人がフェイスブックの機能を使ってワクチン接種会場を検索した」などと貢献をアピールした。
バイデン氏は19日になって「誤情報が人々の命を奪っている」と発言の真意を説明し、フェイスブックには改めて対応を求めた。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、バイデン政権とフェイスブックは過去数カ月間、新型コロナの誤情報への対応を協議してきた。しかし、政権側は企業側の説明や取り組みが不十分だと判断し、公にプレッシャーをかける方針を決めたという。
SNS企業による投稿削除やアカウント凍結を巡っては、共和党側から「言論の自由の侵害だ」との批判も上がっている。トランプ前大統領もフェイスブックなどを相手取り、自身のアカウントの凍結措置差し止めなどを求める訴訟を起こしている。【ワシントン秋山信一】
フェイスブックが削除対象にしている新型コロナ関連の主な誤情報の例
「ワクチンにマイクロチップが含まれている
「ワクチンは自閉症を誘発する」
「第5世代(5G)通信が感染を拡大させる」
「ビタミンC接種で新型コロナ感染症は治る」
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