2021年6月9日水曜日

エリート学生を問答無用で射殺…金正恩「豪華別荘」での惨劇  高英起 | デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト 6/9(水) 6:05

北朝鮮各地に存在する「特閣」と呼ばれる施設。最高指導者だけが利用できる豪華別荘だが、その存在はベールに包まれている。 韓国のNGOが運営する北朝鮮向けラジオ局、北韓自由放送は2013年、ある脱北者が、特閣を訪れた経験を持つ知人から聞いた話として、「金正恩の伯父にあたる張成沢(チャン・ソンテク)は、自身の招待所に業務関連の書籍は一冊も置かず、アダルトビデオとポルノ雑誌だけが散乱していた」と報じた。招待所も、特閣と似た施設だ。 その後、張成沢氏は金正恩氏によって処刑された。その決定が下されたのは、金正恩氏の特閣で行われた会議でのことだったとする指摘がある。 (参考記事:【写真】美人女優ピョン・ミヒャンの公開処刑で幕を閉じた「禁断の映画」摘発の内幕) 人民中心の社会を標榜する北朝鮮だが、国事は人民の知り得ない場所で決定されているのだ。 そんな特閣のすぐそばで、敷地に不用意に接近したエリート学生が射殺される事件が起きたという。詳細を、デイリーNKの朝鮮人民軍(北朝鮮軍)内部の情報筋が伝えた。 事件が起きたのは、咸鏡南道(ハムギョンナムド)咸興(ハムン)市郊外にある麻田(マジョン)にある1号特閣地区の衛戍区域だ。ちなみにこの麻田は全国的に有名な海水浴場がある地域だが、主に外国人観光客、高位幹部、トンジュ(金主、新興富裕層)が訪れるところで、手軽な行楽地というよりは別荘地に近いところのようだ。 今月1日の夜、特閣の警備に当たっている護衛司令部所属の兵士は、衛戍区域内の橋の付近で、怪しい物体が接近してくるのを発見した。規則に従って空砲と実弾で7回射撃を行った。 動きを止めた物体は、人間だった。それも海辺から2キロほど内陸に入ったところにある海軍のエリート養成機関「金正淑(キム・ジョンスク)海軍大学」の制服を来た学生で、確認されたときには息絶えていた。調査の結果、亡くなったのは大学の水中艦船指揮官組で、卒業を控えていたチャン氏であることが判明した。 今回の事件について護衛司令部は、軍の総参謀部と金正淑海軍大学に対して「護衛勤務の衛戍規定に忠実に従ったに過ぎない」と、断固たる姿勢を示している。この衛戍区域には、地上、海上、空中問わず、許可なく接近するあらゆる人間、物体に対しては無条件で銃撃することが決められている。 ただ最近、別の地域にある特閣の警備を担当する中隊長が、以前から恨みを抱いていた政治指導員を射殺する事件を起こしている。それだけに、護衛司令部の「軍機の乱れ」が追及される可能性もあり、内部は戦々恐々とした空気が漂っているという。 そんな空気は海軍大学も同じだ。大学側は、チャン氏が一体どのような理由で麻田特閣地区に接近したのか、自主的な調査を始めた。また、大学の学生規律管理問題に関する内閣教育省の検閲(監査)が予告されている。 亡くなったチャン学生の遺体は大学が丁重に葬り、裏山に埋葬した。同級生の間からは「卒業を目前にして犬死した」「いくら衛戍区域でも、人に銃弾を乱射するなんて」などと嘆く声が上がっているとのことだ。そんな声を聞きつけたのか、大学は事件についてかん口令を敷き、遺族には「任務遂行中に戦死した」とのみ知らせた。 観光地近隣での射殺事件といえば2008年7月、当時、韓国から直接入国しての観光が可能だった北朝鮮の金剛山(クムガンサン)の立入禁止区域内で、韓国人女性の観光客が朝鮮人民軍の兵士に射殺された件がある。今回の事件の舞台となった、麻田海水浴場と衛戍区域が隣接するこの区域では、射殺事件が頻発しているようだ。情報筋は、「今年1月には、銃で撃たれた跡があり死後1週間ほど経ったと思しき遺体が、衛戍区域の裏山で発見される事件が起きた」と証言している

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