2020年10月14日水曜日
「デジタル人民元」にG7警戒感 中国に自国民の個人情報筒抜け 産経新聞 - 2020年10月14日
デジタル化時代の通貨をめぐる覇権争いが本格化してきた。日米欧の先進7カ国(G7)は13日の財務相・中央銀行総裁会議で、12日から中国が実証実験を始めた「デジタル人民元」を念頭に、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の取引データの恣意(しい)的な利用を牽制(けんせい)する共同声明を発表。中国も加わる14日の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議を前に、神経戦を展開した。
中国国営新華社通信によると、広東省深●(=土へんに川)(しんせん)市では12~18日の期間限定でデジタル人民元の試験運用が進んでいる。総額1千万元(約1億6千万円)のデジタル人民元を抽選で選ばれた市民5万人に配布。対象者は専用アプリをスマートフォンにダウンロードすれば、アプリに表示したバーコードを店側が読み取るなどして市内3千超の対象店舗で支払いができる。
「銀行カードとひも付けなくていいので便利だ」といった利用者の声も紹介され、2022年の北京冬季五輪を視野に、導入を目指しているとの観測もある
こうした中国の動きに対し先進国は警戒を強める。デジタル人民元がいずれ国境を越え自国内で流通する可能性があるからだ。デジタル通貨は現金と異なり、買い物をした場所や送金履歴を管理者が把握できる。自国民の個人情報が中国当局に筒抜けになれば、プライバシーの侵害や人権抑圧に悪用される恐れがある。
また米国は、デジタル人民元が米ドルの金融覇権の切り崩しを狙ったものだと神経をとがらせる。巨大経済圏構想「一帯一路」などを通じて周辺国に流通すれば米国が支配する国際的な銀行決済システムに依存せずに貿易ができ、金融制裁を逃れる手段になるからだ。
中国の独走に歯止めをかけるため先進国側もCBDCの開発を加速。日本銀行は来年度の早い時期に実証実験を始める方針で、欧州中央銀行(ECB)もデジタル通貨を発行するかどうか来年半ばにかけ判断するとしている。慎重な声が強かった米連邦準備制度理事会(FRB)も、ここにきて研究を活発化した。
さらにG7は13日の財務相・中央銀行総裁会議でCBDCの基本原則を発表。日銀の黒田東彦総裁は記者会見で「(G7以外の国もG7と)同じように透明性、法の支配、健全な経済ガバナンス(統治)を備えた形で発行しないと影響が出かねないと注意喚起した」と説明した。
とはいえ、先進国の間でも米国の通貨政策に振り回される現行の「ドル一強」体制には不満が根強く、共闘は同床異夢だ。米フェイスブックが公表した暗号資産(仮想通貨)「リブラ」計画をはじめ民間事業者でもデジタル通貨の開発は進んでおり、次世代の通貨覇権をめぐる主導権争いは次第に熱を帯びてきている。
(田辺裕晶、北京 三塚聖平、ワシントン 塩原永久)
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