2020年11月16日月曜日

中国アリババ驀進に国家の「待った」がかかる訳 テンセント含め、独占に当局が監督を強める 秦 卓弥 - 東洋経済オンライン - 2020年11月16日 

日本企業は追いつけるか?  中国で毎年11月11日に行われる世界最大のネットショッピング商戦「双11(ダブルイレブン)」。同商戦を主催する中国のアリババグループは、今年の販売期間を11月1日~3日と同11日の2回に分散。予約販売期間も含めた11日間での取扱高(流通総額)は前年比26%増の4982億元(7兆7200億円)という史上最高の記録を達成した。  ピーク時には1秒当たり58.3万件の注文を処理したというからすさまじい。楽天の国内EC年間流通総額は3兆8595億円(2019年1~12月期)だから、わずか10日間余りでアリババは楽天の2年分の規模を売り上げたことになる。 アリババはじめ中国ネット企業の株価が下落  しかし、数々の記録を打ち立てたにもかかわらず、アリババの11日株価は前日比9.5%安(終値、香港市場)と急落し、香港版ナスダック指数とも呼ばれるハンセンテック指数の中で下落率トップとなった。ほかにもテンセント、京東(JDドットコム)、美団(メイトゥアン)など、中国のネット企業大手の株価はこの日、軒並み下落。一体、何が起きたのか。  ダブルイレブン商戦が最も盛り上がる最終日直前の11月10日。中国の規制・監督当局である国家市場監督管理総局が、ネット企業の独占行為を監督強化する新たな指針(「プラットフォーム企業の経済領域での独占禁止ガイドライン」)を公開したのだ。アリババをはじめ市場シェアを急速に高めているネット企業による取引先への不当な圧力や消費者データの乱用などを防ぐ枠組みを設けるもので、11月末まで意見を公募する。  アリババグループやテンセントが展開するスマートフォンアプリはともに年間10億人以上が利用。1つのアプリからミニアプリと呼ばれる無数のサービスを提供しているのが特長で、モバイル決済やチャット機能だけでなく、フードデリバリーから行政手続き、オンライン医療まで日常生活で必要なサービスの大半を利用できる。『週刊東洋経済』11月16日発売号は、「デジタル大国 中国」を特集。「秒速」で進化する中国のデジタルサービスの全貌や現地で展開する日本企業のDX戦略を明らかにしている。  こうしたデジタル企業のサービスは今や中国の生活の隅々まで根を張る一方、熾烈な競争環境下で取引先にサービスの二者択一を迫ったり、国民のビッグデータを企業が占有したりするなどその弊害も見え始めている。これまで政府がグレーゾーンとして見逃していたデジタル企業の支配力を弱めようという動きだ。  政府による規制強化には、さらに伏線があった。11月に予定していたアントグループによる「史上最大のIPO(新規株式公開)」延期だ。アントはアリババが33%を出資する関連会社として、10億人超が利用するモバイル決済の「支付宝(アリペイ)」や金融事業を展開する。11月5日に香港、上海の証券取引所にIPOを予定し、345億ドル(約3.6兆円)と史上最大の資金調達を見込んでいた。ところが、前々日の同3日に突然延期が公表されたのだ。  予兆はあった。アントが手掛ける消費者金融事業の融資残高は1.7兆元(26兆円)もあるのに、大半は提携銀行を介した融資でアントのバランスシートにはその2%しか計上されていない。資本規制の制約なしに膨張を続けていることへの伝統的金融事業会社からの批判が強まっていたほか、金融リスクの火種になる懸念が指摘され、規制当局と長年つばぜり合いしてきた。  今年6月に、社名から「金服(フィナンシャルサービス)」を取りアントグループに改称、投資家らに対して「フィンテックではなく、テック企業だ」と強調していたのも、規制当局からの管理・監督や批判をかわすためだったと見られる。 命取りになったジャック・マー氏のスピーチ  命取りになったのが、10月24日に上海で開催された金融サミットでの、アリババ創業者・馬雲(ジャック・マー)氏のスピーチだ。ジャック・マー氏は2019年9月にアリババの会長職を退き自らを退休人士(引退者)と名乗っていたが、複雑な間接所有でアント発行済み株式の50.5%を保有。グループの中で最も革新的で金のなる木であったアントを実質支配している。  この日、ジャック・マー氏は与えられた15分の時間を超過し、「バーゼル合意は老人クラブ」「中国の問題は金融のシステミック・リスクではなく、金融エコシステムの欠如というリスクだ」と21分間にわたり踏み込んだ発言を繰り返した。  この金融サミットには、国家副主席の王岐山氏や前中国人民銀行総裁の周小川氏など大物が出席。特に、王岐山氏は開幕スピーチで「近年、新しい金融技術が普及し効率性や利便性が高まった一方で、金融リスクも拡大している」と警鐘を鳴らしていた。ジャック・マー氏のスピーチは王岐山氏の発言を否定したとも取れる内容になったのだ。  中国メディア「財新」によれば、ジャック・マー氏はスピーチ原稿を自らまとめ、金融事情に精通したアント関係者には事前に見せなかった。関係者は「ジャック・マーひとりの増長だ」と明かしているという。中国のネット上では、以前の社名「螞蟻金服」(マーイージンフー)と同音の「馬已経服(馬雲はすでに屈服した)」との揶揄がある。未曽有のIPOを直前に控え、ジャック・マー氏は虎の尾を踏んでしまったわけだ。  「ミスター人民元」と呼ばれた前中国人民銀行総裁の周小川氏は、11月10日に開かれたボアオアジアフォーラムの開会式で、「科学技術のイノベーションは巨大な運動エネルギーを生み出すと同時に、社会の安定管理に巨大な挑戦をしている」と警告。デジタル企業の独占禁止について改めて強調した。  政府による強い統制の下で民営企業のイノベーションも享受しようとする中国の「良いとこ取り」政策はうまくいくのか。中国のデジタル企業は岐路に立たされている。 『週刊東洋経済』11月21日号(11月16日発売)の特集は「デジタル大国 中国」です。

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