2021年1月6日水曜日

コロナ禍なのに売上高5倍! SNS使い中国向けに「神薬」発信 龍角散の甘さん NIKKEI STYLE - 2021年1月5日 11 命の母A /更年期障害剤 12 龍角散/のど薬

龍角散(東京・千代田)が中国向けの越境EC(電子商取引)に力を入れている。新型コロナウイルス禍で訪日客の消費が落ち込む中、BtoCにおける10月の同分野の売上高は前年同月の5倍以上に。龍角散ののど薬は中国で人気が高い「神薬」の1つ。同社営業本部の甘●(おうへんに路)(かん・ろ)さん(32)が、複数のSNS(交流サイト)などを駆使して販売をけん引する。 甘さんは北京市出身。19歳から日本で過ごす。「ドラえもん」が好きで、父親が日本で働いていたこともあり、幼い頃から親近感があった。福岡の日本語学校から長崎の大学、東京の大学院へと進み、その後は日本にある中国語メディアの記者として働いた。その際の取材先の一つが龍角散。中国市場の開拓を目指す藤井隆太社長と意気投合し、2017年に転職した。 龍角散は以前から個人輸入などのかたちで中国で一定の知名度を得ていた。ただ個人輸入では、その後の販売ルートが分からない。自社で流通を管理できる越境ECの重要性が高まっていた。 甘さんが入社した年、龍角散は中国アリババ集団の「天猫(Tモール)」を通じて中国向けのEC事業を始めた。甘さんは国内営業の経験を積みながら中国事業にも携わり、まずは1~2品目で販売を開始。この9月にはアリババとの商談を成立させて、越境ECサイト「天猫国際(Tモール・グローバル)」上に龍角散の旗艦店を出した。 販売促進にも工夫を凝らす。例えば通販サイトの「淘宝網(タオバオ)」を使い、生配信で商品を紹介するライブコマースを展開する。藤井社長にも出演を依頼し、中国の消費者に直接メッセージを伝えてもらった。龍角散の商品を愛用している中国の声優らにも動画出演を頼み、SNSなどで配信した。 ただ「どれだけいい広告素材があっても、多くの人に届かなければ意味がない」と甘さんは指摘する。中国の消費者はECで商品を探す際、様々なサイトをじっくり比較して、総合評価が高いものを選ぶ傾向があるという。 そのため中国版のツイッターである「ウェイボ」や、動画配信サービスの「bilibili(ビリビリ)」、動画投稿アプリの「TikTok(ティックトック)」など、あらゆる媒体に毎日投稿を続け、商品を総合的にアピールしていく必要がある。 さらに消費者の属性によって見る媒体が違ったり、新しい媒体が登場したりするため、現地の情報をより早く、きめ細かく収集する作業が欠かせない。 17年に中国向けの越境EC事業を始めた当初は、社内にこうしたノウハウの蓄積はなかった。甘さんはSNSへの投稿について「関係部署で内容を入念にチェックし、一つ一つ上司の許可を得てから配信していたのでは遅い。競合他社に差を付けられる」と繰り返し警鐘を鳴らした。 医薬品の効能に関する表現などは担当者と念入りに確認するが、SNSの投稿内容そのものは基本的に甘さんに任されている。上司にあたる営業本部国際課の伊藤和人課長も「中国のEC市場については、甘さんが社内で誰より知っている」と信頼を寄せる。 甘さんのスマートフォンには対話アプリ「WeChat(ウィーチャット)」で、ひっきりなしに連絡が届く。中国で提携しているPR会社がSNSなどに投稿する動画の承認を求めてくるのだ。以前は中国向けも日本のPR会社に頼っていたが、19年から現地企業に切り替えた。 この10月、龍角散の中国市場での越境EC取扱高は前年同月実績(2100万円余り)の約5.5倍、1億2000万円近くに拡大した。 当初は甘さんが孤軍奮闘していた中国向けの営業も、現在は中国出身の2人の社員が加わり、手分けして取り組めるようになった。甘さんは米国在住の中国人向けなどにも同様の販促を手がける。 「自分も気に入っている龍角散の商品を、中国の消費者が高く評価してくれる瞬間にやりがいを感じる」と甘さん。「営業の仕事は勉強の連続。予期せぬトラブルもあるが、人生が豊かになる」と笑顔で話す。 (茂野新太) かん・ろ [日経産業新聞 2020年12月18日付]

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