2020年8月13日木曜日

欧州最後の植民地」に浮上した問題 ハーバー・ビジネス・オンライン - HARBOR BUSINESS Online - 2020年8月13日 3世紀に渡り英西で係争関係にあるジブラルタルのジレンマ  ヨーロッパに存在している唯一の植民地ジブラルタルは1713年より英国の占領下にあるが、スペインは今も自国の領土だとして領有権を主張している。  そんな複雑な帰属問題を抱えるジブラルタルだが、ちょっとした問題が浮上している。それは、英国は今年12月31日をもってEUから正式に離脱することになっているからだ。 しかし、人口僅か3万4000人のジブラルタルの経済はEUに大きく依存している。そのため、ここに来てジブラルタル政府は英国の姿勢に距離を置く方向を模索しているのである。つまり、ジブラルタルは英国の離脱後もEUの統一関税圏に留まりたいということである。なにしろ、ジブラルタルは年間で1000万人の観光客を受け入れている。その大半はEUからの訪問なのである。  更に、ジブラルタルの向かい側のスペインから1万4000人が毎日ジブラルタルに通勤しているという事情もある。英国に従ってジブラルタルもEUから完全離脱となると、観光客は減少し、スペインからの労働者の確保も問題になる可能性があるのだ。(参照:「El Pais」)  フランコ独裁政治の時の1969年から16年間ジブラルタルとの国境は封鎖されてジブラルタルは陸の孤島となってしまい経済は大きく後退した。その苦い経験をジブラルタルは繰りかえしたくないのである。Brexitについての住民投票でもジブラルタルでは96%の住民がEUに残留することを希望したというほどだ。 スペイン外相がジブラルタル首相と会談。猛批判される このような事態にあるジブラルタルに、スペインのアランチャ・ゴンサレス・ラヤ外相が同政府に接近。先月28日、ゴンサレス・ラヤ外相はジブラルタルのファビアン・ピカルド首相と会談をもった。 会談は僅か30分程度であったが、スペインの主要野党は一国の外相が自国の領土が占有されているその領地の代表と会談を持ったということを猛烈に批判した。それは占有されていることを認める行為に繋がることだというのが批判の主な理由だ。  ラホイ政権で外相を務めたガルシア・マルガーリョは「彼女の外交政治は散漫で、300年続いているわが国の位置づけを壊すものだ」と述べた。更に、同氏は「ピカルドというあたかも一地方の市長レベルの人物をスペインの外相と同等のレベルに格上げさせてしまった。それは我が国にとって恥ずべき行為だ」「サンチェス首相とラヤ外相はジブラルタルという植民地を認め、タックスヘイブンであることを受け入れたことになる」とも述べた。(参照:「La Razon」) イギリス側は「スペインからの帰国者への自主隔離」で報復⁉︎  彼女の外相としての外交には今回の出来事以外にも批判が生まれている。彼女はもともとEU本部の商業関係に属していた6か国語をしゃべる高官であった。しかし、こと外交となると、彼女は素人だ。スペイン外交がどうあるべきかという明確な考えも持っていない。また対EUについても戦略に欠けるとして外務省内でもよい評価はされていない。  ラヤ外相の外交は同じサンチェス政権での前首相だったジュセップ・ボレイルの外交手腕とは大きくかけ離れたものだ。なお、ボレイルは現在EUの外交トップの外務・安全保障上級代表に就任している。この外相の交代には、サンチェス首相が自ら外交を担いたくボレイルを外して外交では素人のゴンサレス・ラヤを外相に起用したのだという憶測もある。  一方、英国の方では今回のピカルド首相がスペイン外相と会談を持ったということに明確な表明はしていない。しかし、その会談の二日後に英国政府はスペインからの帰国者には2週間の自主隔離を義務づけたという出来事があった。この決定は、両者が英国政府の代表を加えることなく会談をもったことへのボリス・ジョンソン首相の否定的反応かもしれない。 <文/白石和幸> 【白石和幸】

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