2020年8月21日金曜日
ジム・ロジャーズ「香港は中国にとって必要ない」民主化運動の背景は? AERA dot. - 2020年8月21日
香港警察が、香港紙「リンゴ日報」創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏と民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)氏を香港国家安全維持法違反容疑で逮捕した。12日までに2人は保釈されたが、中国による香港への圧力は強まる一方で、世界から批判が高まっている。
香港について考えるなら、1949年までさかのぼらなければならない。
この年、中国共産党政権による中華人民共和国が成立した。共産党政権に反発した人たちは、香港に逃れた。その後、香港は貿易を通じて経済発展を遂げる。工場の生産拠点もつくられ、世界有数の金融センターにもなった。
しかし、現在はどうか。今の香港は、ビジネスをするには人件費や物価が高すぎる。コストがかかるので、経済的な競争力も失われている。一方で、香港に近い深セン市(中国広東省)の発展はめざましい。「アジアのシリコンバレー」と呼ばれるほど、優秀な企業が集まっている。
香港の経済状況はますます悪くなり、生産拠点だけではなく、貿易拠点も他の場所に移っている。
香港での民主化デモのきっかけになったのは、逃亡犯条例の改正案だったとされている。しかし、その裏には、家賃が高く、人々が生活に苦しんでいて、経済が少なからず後退していることも影響している。
香港に拠点を置くビジネスマンは、今後も香港を離れることはないかもしれない。だが、今後、香港でビジネスをやろうと考える人は少なくなっていくだろう。中国における香港の経済的な価値は、以前に比べて大きく低下した。中国にとって香港は必要ではなくなったのだ。
89年の天安門事件も同じだった。表向きは民主化が目的だったが、当時の中国が抱えていた経済的な問題と、それに対する人々の不安が与えた影響が大きかった。
深センが発展し、マネーはシンガポールにも集まっている。その状況で、中国が香港を本当に抑え込もうとするなら、軍隊を派遣する必要はない。北京政府は、香港をこのまま放置し、衰退すればいいと考えているはずだ。
もちろん、中国も変わらざるをえない。
新型コロナウイルスの拡大をきっかけに、中国の人々は習近平国家主席への不満を公言しはじめた。これは、「閉ざされたクローゼットの中にいるつもりはない」という意思表示だ。危機になると、人々はオープンになる。オープンになれば、中国は変わっていく。
中国の共産党一党支配が崩れると、政治が不安定化するという人もいる。だが、中国共産党の弱体化は良いことだ。
米国が20世紀に覇権国になった時も、国内外でいろいろな問題を経験した。10回以上の不況を経験し、街では暴動も起きた。それでも、20世紀では最高の国になった。中国も同じような問題を抱えながら、同じ道を歩むだろう。
中国は、国境線で複数の対立を抱えているが、国際的な戦争は好まない。戦争は自国にとって利益にならないことを、数千年の歴史を通じて理解しているからだ。
今はアジアの時代だ。中国は米国から“パワー”の座を奪う。その客観的事実を理解したうえで、中国を動かしていくことが重要だ。
(取材/朝日新聞シンガポール支局長・西村宏治、構成/本誌・西岡千史、監修/小里博栄)
ジム・ロジャーズ/1942年、米国アラバマ州出身の世界的投資家。ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロスと並び「世界3大投資家」と称される。2007年に「アジアの世紀」の到来を予測して家族でシンガポールに移住。現在も投資活動および啓蒙活動をおこなう
※週刊朝日 2020年8月28日号
香港から東京へ もっと規制を緩めて111
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