2020年9月7日月曜日
経営者127万人「後継者不在」の切実すぎる問題 コロナ倒産回避のための事業承継は待ったなし 田島 靖久 - 東洋経済オンライン - 2020年9月7日
休廃業ならまだましだ。倒産となれば冒頭で紹介したような悲惨な状況が待ち構えている。コロナ禍の今、そうならないようにするためには、事業承継を急ぐ必要があるのだ。
では、事業承継にはどのような手法があるかといえば、大きく分けて6つだ。
最大のポイントは、後継者の有無。まず後継者がいて、それが親族ならば「相続」して株式を譲渡する。親族にはいないが社内に後継者がいる場合には「MBO(役員による買収)」か、社員を昇格させ
て経営を引き継がせる「内部昇格」のいずれかで承継する。
一方、後継者がいない場合には、第三者に承継するか、できなければ最後は廃業だ。第三者承継には、外部から人材を招いて経営を引き継がせる「外部招聘」と、「M&A(第三者への株式譲渡)」で会社を売却する手法がある。M&Aといえば大企業が対象とのイメージが強い。だが、後継者に乏しい中小企業の事業承継においては、今やM&Aが主流となりつつある。
タイミングが大きな分かれ目
ただ、タイミングを見誤ったり、上手に売却したりしなければ、せっかくわが子のような会社を売却しても、売却価格に大きな差が生じてしまう。
関東地方で中古車販売やレンタカー事業などを展開していた売上高4億円、当期純利益2000万円の中小企業が実際に事業承継したケースで見てみよう。
売却価格の算出方法は少々難しいので、ここでは割愛するが「EBITDAマルチプル法」と「年買法」とで比較した結果、2000万円ほど高かった年買法を使って3億1000万円で売却できたという。
これがタイミングのずれによって、新型コロナの影響を受けて売上高が減少したらどうなるのか。
売上高が4分の1減少すると赤字に転落。資金繰りに窮するようになり新たな借り入れをせざるを得なくなる。そうした状況だから減価償却費の吸収さえ難しくなってしまい、EBITDAマルチプル法では算定不能、年買法だと9000万円になる。
さらに売上高が半減すると、現預金が大幅に減少、追加の借り入れも困難になる。不動産などの資産を切り売りして債務超過ギリギリに。結果、やはりEBITDAマルチプル法では算定不能、年買法でもわずか1000万円となってしまう。つまり、事業承継のタイミングで実に3億円もの差が出てしまうのだ。
だが、中小企業経営者の実に4割がいまだ事業承継を「考えていない」と回答しているのが現実だ。新型コロナで、すでに売上高が減少している企業も少なくないが、収束する気配はない中ではさらに厳しい状況に追い込まれていくのは間違いない。
「財務状況がひどく毀損する前ならまだ高く売却できるが、残された時間は少ない。一刻も早く、事業承継を決断すべきだ」と訴える金融関係者は少なくない。
コロナ禍の今、事業承継は待ったなしだといえそうだ。
『週刊東洋経済』9月12日号(9月7日発売)の特集は、「得する事業承継 M&A」です。
中小企業の2025年問題が前倒し
中小企業経営者たちの多くが同じような悩みをかかえている。
中小企業庁が2016年度に中小企業の現状について調査したものによれば、70歳未満の経営者が約136万人なのに対し、70歳以上の経営者は約245万人と2倍近く、高齢化が進んでいることが分かる。そのうち、実に半数以上の127万人が「後継者が決まっていない」と答えている。
その結果、61.4%の中小企業が、後継者に事業承継できなかったことで、黒字であるにもかかわらず休廃業や解散に追い込まれているのだ。それでなくても、中小企業の休廃業・解散件数は右肩上がり。5年間で1万社以上増加しており、〝黒字廃業予備軍〟が60万社はくだらないと見られている。
実は、こうした問題は以前から指摘されていた。経済産業省と中小企業庁の試算によれば、事業承継問題を解決しなければ廃業が急増、25年ごろまでの10年間累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性があるという。中小企業の「2025年問題」と呼ばれるものだ。
それが、2025年を待たずして到来してしまう可能性が高まっている。理由は、言わずもがなだが「新型コロナ」だ。東京商工リサーチの試算では、2020年に休廃業・解散する中小企業は5万件、倒産は1万件に達する見込み。それに伴って、事業承継できずに退場させられる会社が急増すると見られているからだ。
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