2020年7月20日月曜日

AERA dot.生活習慣治療薬に潜むリスク(危険) コロナが悪化する

AERA dot. コロナ悪化の危険性も “生活習慣病”の治療薬に潜むリスク 2020/07/16 08:00 © AERA dot. 提供 ※写真はイメージです (GettyImages)  高齢になれば生活習慣病の薬を飲んでいる人も多い。だが、その薬の中には免疫力を低下させるものもある。新型コロナウイルス感染症は、約8割が軽症で自然に治るが、免疫力が弱い高齢者や持病がある人は重症化するリスクが高い。どんな薬が危険なのか、専門家に聞いた。  持病を放置してはならないが、本来なら薬が不要な健康な人まで飲まされていることも少なくない。血圧やコレステロールが「基準値」より高いと診断されると、降圧剤やコレステロール低下剤を処方されるからだ。薬には副作用があり、別の疾病を引き起こすこともある。  NPO法人「医薬ビジランスセンター(薬のチェック)」(大阪市)の理事長で内科医の浜六郎医師がこう指摘する。 「いま飲んでいる薬が本当に必要かどうか、この機会にチェックするべきです。次の新型コロナ(以下、コロナ)の流行期に備え、感染症にかかっても重症化しないように薬を減らしたり、変えたりすることを検討してみてください。ただし、降圧剤や睡眠剤、抗うつ剤、ステロイド剤など急にやめると危険な薬があるので注意が必要です」  血圧の薬は、「正常範囲」が厳しすぎるとの指摘が出ている。日本高血圧学会は正常血圧の範囲を、収縮期120mmHg/拡張期80mmHg未満とし、140/90以上だと高血圧と診断される。全国では約4300万人が該当するという。  浜医師が説明する。 「ストレスで血圧は上がります。また、高齢で血管が硬くなると、血圧を上げることで組織が酸素不足や栄養不足に陥らないようにしているのです。下げすぎはかえって危険です。英国の国立医療技術評価機構(NICE)などの指針では、160/100未満の人は血圧を下げても予後がよくなるという証拠がないので、降圧剤は勧めていません」  コロナとの関連でいえば、当初から高血圧が重症化の要因とされ、ある種の降圧剤の関与が指摘された。コロナは肺や消化管ほか全身の組織にあるACE2という酵素に結合して、ヒトの細胞内に入り込む。降圧剤のARBとACE阻害剤は、このACE2を増やしてコロナに感染しやすくなる可能性があるというのだ。  米ニューヨーク大のグループが行った最大規模の研究では、ARBやACE阻害剤は、他の降圧剤(カルシウム拮抗[きっこう]剤、β遮断剤、利尿剤)と比較して、コロナの感染や重症化を増加させていなかったと結論づけた。だが、浜医師はこう説明する。 「この研究データを詳しく検討しました。高血圧の人の割合を見ると、PCR検査の陰性者が6700人中1784人(26.6%)、陽性者が5894人中2573人(43.7%)、重症者は1002人中634人(63.3%)でした。高血圧の人はコロナにかかりやすく、重症化しやすいという結果です。高血圧の症状そのもののせいもあるのでしょうが、どの降圧剤でも種類によらず感染しやすく、重症化する割合を高めている可能性があります。なかでも、カルシウム拮抗剤は他の降圧剤に比べて重症化を約3割高め、統計学的に有意でした。一方、β遮断剤と利尿剤は、カルシウム拮抗剤に比べてコロナにかかりにくかったのです。この研究は、それぞれの降圧剤の相対的な危険度を調べたものなので、個別の降圧剤の害が目立たなかったようです」  重症化を起こしやすいとされるカルシウム拮抗剤は、血管の筋肉へのカルシウムの出入りを抑制することで、血管の収縮を緩めて血圧を下げる。浜医師が続ける。 「全身のほとんどの細胞は、正常に働くためにカルシウムの出入りが必要です。これを抑制すると免疫細胞まで働かなくなり、感染症を重症化させます。降圧剤でも、ARBは免疫抑制作用がありますが、ACE阻害剤のほうは免疫への影響は少なく、比較的安心です」  ただし、降圧剤を急にやめると、血圧が一気に上昇することがある。医師と相談しながら少しずつ減らす方法を探りたい。  糖尿病(2型)の薬も、免疫機能を下げる薬が多く、コロナへの感染リスクが高まるので検証が必要だ。日本糖尿病学会が推奨しているヘモグロビンA1cの正常値は6%未満とされている。だが、浜医師によれば7~8%の範囲で緩くコントロールすべきで、高齢者は8%台でもいいという。血糖値を下げる薬には、古くから使われているスルホニル尿素剤(SU剤)や、膵臓(すいぞう)からインスリンの分泌を促すインクレチン関連剤(DPP‐4阻害剤、GLP‐1受容体作動剤など)という新しい薬がある。 「SU剤は使い続けるとインスリンが出にくくなり、かえって糖尿病を悪化させます。インクレチン関連剤はいずれも免疫機能を低下させるので、感染症を悪化させ、発がん性にもつながります。血糖値を正常値まで下げようとすると低血糖になって動悸(どうき)、発汗、意識障害などの症状が表れ、心臓や腎臓に障害を起こすリスクがある。低血糖のほうが怖いので、少量のインスリンを補う程度に使う治療法に変えることを勧めます」  血液中のコレステロールが多いと、動脈硬化の原因になると一般的にいわれている。総コレステロールの基準値は130~219mg/dLだ。「悪玉」と称されるLDLコレステロールが140以上だと、脂質異常症と診断される。  しかし、コレステロールは3大栄養素の脂質の重要な成分。免疫をはじめ体の活動を支えるために必須のものだ。浜医師は、「悪玉」も含め、コレステロールが高めの人のほうが長生きで、無理に下げると免疫力が弱まり、コロナなどの感染症にかかりやすくなると説明する。 「コレステロール低下剤としてよく処方されるスタチン剤は、体に必須のコエンザイムQや糖たんぱくをできにくくして、免疫力や細胞の働きを弱めます。注射剤のPCSK9阻害剤はLDLコレステロールを低下させますが、心筋梗塞の防止に効果はありません。どの薬も、いつやめても何の不都合もありません」  薬剤師で『その「1錠」が脳をダメにする』などの著書がある宇多川久美子氏は、生活習慣病の薬について見解をこう語る。 「基礎疾患を放っておくことはリスクが高いので、高血圧や糖尿病の薬についてはやめたほうがいいとは言えません。ただ、薬を飲んでいるから病気をコントロールできていると思い込みがちです。コロナで自宅にいる時間が長くなって食事の習慣を変えてみたり、ウォーキングを始めたりしたことで、生活習慣病の薬が自分にとって本当に必要かどうか気づいた人も多くいます。『あれ、この薬は飲まなくてもよかったのか』と考えるきっかけになったのではないでしょうか。例えば、高血圧の薬を普段40ミリ飲んでいる人は少しずつ減らしてみて大丈夫だと思えればいい。万一、血圧が上がってしまったら、また飲み始めればいいのです」 (本誌・亀井洋志、秦正理) ※週刊朝日  2020年7月24日号より抜粋

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