2020年7月28日火曜日

ダイヤモンド・オンライン 韓国に米国が迫る過酷な「踏み絵」、サムスンを取るか中国を取るか 武力でも世界1??? 真壁昭夫 2020/07/28 06:00 韓国に“踏み絵” 対中包囲網を強化する米国  足元、日増しに米国と中国の対立が緊迫感を増している。その背景には、政治、経済、安全保障など多くの面で、現在の覇権国である米国が中国に追い上げられていることがある。政治的には、中国は強力な経済をバックに国際社会での発言力を増している。また経済面では、「2030年までに中国が米国を抜き世界一の経済大国になる」との予測が増えてきた。さらに安全保障の面では、中国は海軍力を強化して南シナ海に進出するなど、米国の覇権は徐々に退潮した。  そうした中国の台頭を許した一因として、米国のオバマ前大統領が目立った行動をとらなかったこともある。ある意味では、それがトランプ大統領を生んだ要因の一つとも考えられる。  トランプ政権は中国の台頭を抑えようとかなり強硬だ。米国の保守派から見ると、トランプ大統領だからこそ中国に強い態度で臨めたともいえる。コロナショックが発生するまで、対中強硬姿勢は保守派層を中心にトランプ氏が約4割の支持率を守った主な要因だった。また、国際情勢の安定にとっても米国が中国に毅然とした態度で臨むことは重要だ。  最近、世界経済の今後の行方を左右する5G通信分野で、米国が中国のファーウェイを締め上げている。これからも、米中対立はさらに先鋭化する可能性が高い。米国は英・豪・加を自陣に引き入れ、対中包囲網を強化している。独仏を中心にEUも中国と距離を取り始めた。  米国は経済面で中国を重視してきた韓国に“踏み絵”を踏ませ、対中包囲網をより強化したいだろう。韓国はそうした変化に対応することが難しいようだ。わが国はアジア新興国やEUとの関係強化、米中から必要とされる先端技術の開発力を強化し、米中対立を国力引き上げにつなげることを目指すべきだ。 米国と中国の “覇権国争い”の構図  米中対立は、2つの大国による“トップ・オブ・ザ・ワールド=覇権国”の座を巡る争いだ。第2次世界大戦後、米国は強大な軍事力を武器に同盟国の安全保障を支え、自由資本主義を世界に広げた。それによって各国は自由貿易を促進し、経済のグローバル化が進んだ。米国は、安全保障を米国に依存するわが国などに要求をのませ、繁栄を謳歌した。1997年のアジア通貨危機の際に米国が韓国を助けたことも見逃せない。それ以来、韓国は基本的には日米に頼りつつ経済を運営してきた。  その一方、中国は国家資本主義体制を強化して経済成長を遂げ、共産党による一党独裁体制を維持・強化した。想定外だったのは、1989年6月の“天安門事件”後の展開だ。天安門事件の発生によって世界は「これで中国が民主化の道を歩む」と確信した。しかし、想定と異なり、中国は共産党の指揮の下で全体主義を強化し、高い経済成長を遂げた。つまり、中国の人々は共産党のいうことを聞けば豊かになれると信じ、党の指揮に従った。  その後、2008年9月のリーマンショックは、米国の威信低下の一因となり、中国の台頭が鮮明となった。新興国を中心に米国の経済政策への不信が高まる中、2008年11月に中国は4兆元(当時の邦貨換算額で約57兆円)もの経済対策を打ち出した。それは、一時的に世界の資源需要を高め、財政危機に陥った欧州各国などが景気を支えるために重要な役割を果たした。その後、英独などは対中重視姿勢を強めた。  見方を変えれば、オバマ前政権は中国の台頭を放置した。米国の安全保障の専門家からは、オバマ政権は“性善説”に立ち中国の脅威を過小評価したとの指摘がある。2013年、オバマ氏がアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を欠席したのは対中・アジア政策の軽視の表れといえる。  その虚を突いて、中国は南シナ海に進出した。中国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立も世界に呼び掛けた。2015年3月には、米国の同盟国である英国が何の前触れもなくAIIB参加を表明し、独仏伊がそれに続いた。それは、米国の覇権国としての地位が弱まり、主要先進国の連携の弱体化を示す出来事だった。足元、人種差別問題や新型コロナウイルスの感染対策の遅れからトランプ氏への支持率は低迷しているが、米国の対中政策が修正されつつあることは冷静に考えなければならない。 先端5G分野で ファーウェイを叩く米国  トランプ大統領は前政権の対中政策を締め直している。その一つとして、米国は世界の5G通信網整備に存在感を示してきた中国の通信機器大手ファーウェイの台頭を徹底的に阻止したい。カギを握るのが高性能ICチップのサプライチェーンの寸断だ。  ファーウェイ傘下の半導体企業、ハイシリコンの設計・開発能力は世界的に高い。問題は、ファーウェイ全体で半導体生産能力が十分ではないことだ。中国の半導体受託製造企業SMICの生産能力は14ナノメートルだ。中国政府は国家総出で半導体自給率の向上に取り組んでいるが、時間はかかる。ファーウェイはハイシリコンが設計した半導体の生産(調達)を、最先端の5ナノメートルの半導体生産ラインを持つ台湾のTSMCと韓国のサムスン電子に依存している。  5月、米国は半導体生産力が弱いファーウェイを叩くために制裁を強化した。日米蘭の半導体製造装置などに依存する台湾と韓国にとって、制裁の影響は大きい。米国などの技術を用いることができなくなれば、台湾と韓国も半導体の輸出によって経済成長を目指すことが難しくなる。台湾のTSMCは米国の制裁強化に対応して9月からファーウェイ向けの半導体出荷を止める。それまでにファーウェイはTSMCからできるだけ多くの最先端の半導体の在庫を確保しようと必死だ。  一方、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は態度を表明できていない。輸出減少に直面する韓国は、持ち直しつつある中国経済に半導体などを輸出し、目先の景気を何とか支えたい。ただし、中国との関係を維持しつつ韓国のサムスン電子が米国の技術を使い続けることはできない。  仮に韓国が中国との関係を重視し続けるのであれば、米国は対韓圧力を強めるだろう。韓国が米国との関係強化を明確にできない限り、経済運営は難航するだろう。そう考えると、韓国は米中対立の狭間でかなり苦しい状況を迎えつつある。  他方、英国、カナダ、オーストラリアは5G通信網を整備する政策からファーウェイを段階的に排除する方針などを決めた。対中政策を重視してきたドイツの姿勢も変わる可能性がある。例えていうなら、一時、中国に向かったかに見えた主要先進国の政策の振り子は、ふたたび米国に戻り始めたというべき状況だ。 今後、 さらに先鋭化が予想される米中対立  当面、米中の対立は一段の先鋭化に向かう可能性が高い。米国は覇権国の地位を守ろうと5Gに加え、国際政治、経済、安全保障の全面で対中圧力を強めるだろう。米民主党内にはトランプ政権以上の対中強硬論者が多いことも見逃せない。中国が公布した“香港国家安全維持法”や新疆ウイグル自治区での人権弾圧の問題、南シナ海における各国の主権の保護などを理由に、米国は中国により強い制裁を課す可能性がある。  中国は、米国に強硬姿勢をとらざるを得ないはずだ。それは、習近平国家出席の立場に関わる問題だからだ。新型コロナウイルスの発生などによって習氏の権力基盤にはほころびが出始めた。共産党政権は米国や、それに追随する主要先進国に報復制裁を発動するなどし、国内での求心力を維持しなければならない。経済運営に関して共産党政権は補助金政策を増強し、半導体の自給率向上と世界シェア奪取などに注力するだろう。フィンテックや人工知能などにおける中国の成長力を考えると、数年後に中国半導体産業が米国に比肩する実力を手にする可能性はある。また、中国は硬軟使い分けてアジア各国を懐柔し、欧州に対してはエリクソンやノキアへの制裁を検討するなどして覇権強化に取り組むだろう。  重要なのが、米中のどちらが、より多くのアジア新興国を味方につけるかだ。経済基盤の整備が進む東南アジアを中心に、当該地域は世界経済のダイナミズムの源泉として期待を集めている。足許、カンボジアとラオスは親中姿勢を明確化している。米国が親中国を切り崩し、より多くの安定した親米国を得ることが重要だ。さらには、中国が支援を強化してきたアフリカ諸国とも米国は関係を強化しなければならない。  コロナショックの発生、それを境とする世界経済の急速なデジタル化なども重なり、米中の覇権国争いはこれまで以上に激化している。わが国はその変化をチャンスにしなければならない。重要なことは、わが国がアジア新興国やEUなどと関係を強化し、自国の主張への賛同を増やすことだ。それは、わが国が米国を中心とした安全保障体制の維持と強化、および、公正かつ持続可能な世界経済の運営体制を求める国際世論を形成することにつながる。それが米国を中心とした国際情勢の安定とわが国の国力強化に必要だ。 (法政大学大学院教授 真壁昭夫)

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