2020年8月17日月曜日

ベンチャー「逆風」でも投資集める猛者の潜在力 コロナ禍の中で勝ち・負け「選別」の時代に突入 中川 雅博 - 東洋経済オンライン - 2020年8月17日  2020年はベンチャー企業の「選別」が加速しそうだ。コロナ禍は投資環境に水を差している。日本経済新聞社と投資家向けサービスのケップルの調査によれば、今年1~6月のベンチャー企業の資金調達額(速報値)は1042億円と、前年同期比で47%減った。  『週刊東洋経済』は8月17日発売号で「すごいベンチャー100 2020年最新版」を特集。ウィズコロナ時代に飛躍するベンチャーを100社厳選した。『週刊東洋経済プラス』でもそのリストを掲載している。  起業家側と投資家側のどちらも、ようやく層が厚くなり始めたところでコロナ禍に見舞われた。ベンチャー投資は昨年まで拡大を続けてきたが、一気に冷え込んだように見える。  ところが、個別案件を見ると様相は異なる。1~6月では、太陽光発電サービスのVPP Japanの100億円を筆頭に、次世代電池を開発するAPBが80億円、越境EC(ネット通販)を手掛けるInagoraホールディングスが53億円と、巨額の資金調達を実現したベンチャーが相次いだ。 8月にも100億円超の調達が明らかに  直近では8月4日、ECサイト構築支援サービスや決済システムを展開するヘイが、アメリカの投資ファンド、ベインキャピタルから約70億円を調達すると発表。ほかにもアメリカの決済大手ペイパルなど数社からも出資を受けた。総額は非公表だが、関係筋によれば100億円を超えたという。現時点で今年最大規模だ。同社はエンジニアなどの採用を急拡大し、今後1年半で現在200人の社員数を2倍にすることを計画する。  「長期で株を保有し、上場後も機関投資家を呼び込んでくれるようなところから出資を受けたかった」。ヘイの佐藤裕介社長はベインからの出資の経緯をそう語る。ベインが日本のベンチャーに投資するのはヘイが初めてだ。  現状の投資環境について、日本ベンチャーキャピタル(VC)協会の赤浦徹会長は「成長性のある、目立つベンチャーに、こぞって投資しようという動きが活発だ」と分析する。実はその兆候は昨年から表れていた。国内ベンチャーの調達総額は拡大した一方で、調達社数は減少。特定のベンチャーに資金が集中する傾向が強まり、1社当たりの調達額が大型化している。  ここ数年の投資マネーを支えてきたのは、ベンチャー投資を本業としているわけではない事業会社だった。ただ、本業がコロナの影響を受け、バランスシートからの直接投資や傘下のコーポレートVC(CVC)の投資姿勢が「かなり慎重になり始めている」と複数のVC幹部は口をそろえる。  一方で、専業のVCには投資余力がある。昨年のファンド設立数や資金規模は過去最高の水準だった。数百億円規模のファンドの組成が相次ぎ、ジャフコやグローバル・ブレイン、グロービス・キャピタル・パートナーズといった大手を中心に投資意欲は旺盛だ。  また先述のベインのほか、ゴールドマン・サックスやコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)といったアメリカの投資銀行やファンドなど、VCではない投資会社も国内ベンチャー投資の担い手になりつつある。「日本のレイターステージ(成熟期)ベンチャーへの投資はプレイヤーが少なく、新たな事業領域として狙っているようだ」(大手VCグローバル・ブレインの百合本安彦CEO)。  さらに、テック企業を巡り過熱する米中摩擦を背景に、これまで中国やインドを中心にアジア投資を展開してきたアメリカのVCも日本に視線を向け始めている。世界大手のセコイア・キャピタルも日本での投資を検討中で、複数のVC関係者によれば、クラウド経由でソフトウェアを提供する「SaaS(Software as a Service)」を念頭に置いているという。 最注目株は「SaaS」ベンチャー  個々のベンチャーに目を向けてみると、観光や外食など、集客を基本とする領域の各社は打撃を受けた一方、テレワークやECなど事業をデジタル化する分野はコロナ禍で一気に注目が集まった。やはり、SaaSは注目株の筆頭格だ。  リモート商談ツールのベルフェイスは今年2月に52億円を調達。テレワークが広がったことで、今年3~5月は3カ月連続で月間利用者数が過去最多を更新したという。建設業界向けのプロジェクト管理サービスを手掛けるアンドパッドは、7月に40億円を調達。業界特化型のサービスも台頭している。  「セールスフォース・ドットコム(顧客管理システム)やスラック・テクノロジーズ(ビジネスチャット)などのアメリカのSaaS企業が、日本は一大市場であることを示した。海外VCからの問い合わせは引きも切らない」。SaaSに特化したファンドを運営するBEENEXTの前田ヒロ・マネージングパートナーはそう話す。  今後の注目は「ディープテック」と呼ばれる、バイオや医療、農林水産、宇宙といった長期の研究開発を伴う領域。中でも大学発ベンチャーが活発だ。経済産業省の調査によれば、2019年度の大学発の企業数は2566社と5年で約5割増えた。大学発のVC設立が相次いだことが大きい。  ただ「大学の研究者だけで起業してもうまくいかない。経営や産業をわかる人が必要」と、ディープテック領域の投資に注力するVC、Beyond Next Venturesの伊藤毅CEOは指摘する。VC側が経営人材を紹介することも少なくないという。  投資環境は必ずしも活況とはいえないものの、ベンチャーのすそ野は着実に広がっている。 『週刊東洋経済』8月22日号(8月17日発売)の特集は「すごいベンチャー100 2020年最新版」です

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