2020年7月19日日曜日

AERA dot. コロナショックで「郵便局」破綻の可能性が…貯金、保険はどうなる? 2020/07/18 09:00  郵便局はいま「危篤」状態にある。かんぽ不正販売や長引く超低金利で弱体化した「日本郵政グループ」に、新型コロナによる株価下落が襲いかかり、「破綻」の危機に直面しているのだ。私たちの生活にもっとも身近な金融機関「郵便局」の内実と、その崩壊の衝撃から自分のお金を守る方法について、『「郵便局」が破綻する』(朝日新書)の著者で経済ジャーナリストの荻原博子氏が報告する。 In focus 新型コロナウイルス特集など、最新情報をモバイルで 詳しくはこちら PR Microsoft ニュース *  *  * ■なぜ郵便局が「破綻」するのか 「郵便局」は日本最初の官営フランチャイズチェーンで、明治4年(1871年)に設立。郵便を配るだけでなく、「貯金」と「簡易保険」とで金を集める「集金マシーン」で、戦前は、集めた金を戦争のために使っていました。  終戦直後は、「預金封鎖」やマッカーサーの特定郵便局長会への解体命令でピンチに陥りましたが、田中角栄の登場で、再び繁栄を迎えました。田中角栄は、「郵便局」で集めた金を、「財政投融資」というかたちで「国の第二の予算」として使い、土建国家を築きました。さらに、政治家の「集票マシーン」として利用したため、戦後、「郵便局」は約1万局も増えました。  田中角栄が築いた土建国家を覆したのが、小泉純一郎の「郵政民営化」でした。そこには、「郵便局」に触手を伸ばす米政府の意向も大きく働いていたと言われています。「郵政民営化」は紆余曲折の末、2012年に「日本郵政」を親会社に、「日本郵便」と「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命保険」(以下、かんぽ生命)の4社体制になりました。  しかし、政治に翻弄された結果、「民営化」とは名ばかりの中途半端なものとなり、「破綻」を避けられない5つの時限爆弾が埋め込まれました。  第1は、グループ各社の株価の下落。コロナショックで拍車がかかりました。今のままだと東日本大震災の復興財源が確保できず、「日本郵政グループ」が3兆円弱の巨額損失を計上する可能性が出てきました。  第2は、コストのかかる全国一律の「ユニバーサルサービス」を義務付けられているため、赤字体質から抜け出せず、しかも「郵便局」を支える「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命」2社が「不正販売問題」もあって稼ぎが激減。「ユニバーサルサービス」が義務付けられているので「郵便局」の数を減らすことができず、局員の数を大量に減らしていることでブラック企業化が進んでいます。  第3は、優秀な経営者を政治の思惑で次々と使い捨てにしてきたので、今の「郵便局」を立て直せる力のある経営者がいなくなったこと。企業のガバナンスも効かなくなり、巨額損失や不正事件が後を絶たなくなっています。  第4は、「郵政民営化法」に縛られ、新商品の発売前に良し悪しを広く問わなくてはならないので、良い商品であればあるほどライバル企業から潰されて、優れた商品をつくれない企業としての根本的な欠陥があることです。  第5は、民間企業といいながら、経営判断よりも政治判断が優先され、行き当たりばったりの方針でしか会社運営できなくなっていること。そのため、民間の優秀なノウハウを大胆に取り込むことができない組織となっています。   以上のように「企業としての将来性」が描けず、展望も競争力もない中で、頼みの綱の「ブランドイメージ」も「不正販売」で地に落ちました。さらに、新型コロナウイルス禍の長期化で、「郵便局」を支える「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命」の収益も悪化し、株価も下落していく悪循環に見舞われています。  結果、「日本郵政」「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命」の3社の株売却はほぼ不可能な状況になっています。しかもそれだけでなく、株価の下落によって、帳簿上でも大規模な損失が発生する可能性が出てきました。  もはや「郵便局」神話は崩壊し、「破綻」へのシナリオが着々と進みます。 ■郵便局が破綻した場合、貯金や保険はどうなるのか?  では、もし本当に破綻した場合、今預けている「貯金」や加入している「保険」は、どうなるのでしょうか。 「郵便局」に預けた「貯金」や、加入した「保険」は、預入や加入時期によってイザという時の扱いが異なります。また、同時期に購入した金融商品であっても、政府の方針次第で元本が全額保全されるか、一部毀損するかは分かれます。 【1】「郵政民営化前(2007年9月30日まで)」に預けた定期性の貯金や、契約した簡易保険、購入した投資信託について 「貯金」「簡易保険」は全額保護され、継続される。「投資信託」は分けて管理されているので損失なし。 【2】「郵政民営化後(2007年10月1日以降)」に預けた定期性の貯金や、契約した保険、購入した投資信託は、破綻処理スキームによって違う スキームA:「郵便局」が再国営化されれば、すべてに政府保証がつく スキームB:「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命」が他の金融機関に吸収合併されれば、金融商品もそのまま移行する スキームC:「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命」が破綻処理されると、財産が一部カットされる可能性がある <スキームCの場合> 「貯金」(通常貯金、通常貯蓄貯金、定期貯金各種、財形貯金各種など)は、利用者1人につき、元本1000万円と利息まで保護。振替口座は全額保護される。「保険」(終身保険、定期保険、養老保険、がん保険、学資保険、変額年金保険)は、保険金が減額する可能性がある。「投資信託」(投資信託、確定拠出年金)などの金融商品は、基本的に損失なし。 「郵政民営化前」に契約した定期性の貯金や簡易保険は守られるということで一安心している人もいるかもしれません。けれど、油断して放置していると、権利が「消滅」してしまうので注意しましょう。 荻原博子(おぎわら・ひろこ) 1954年、長野県生まれ。経済事務所に勤務後、82年にフリーのジャーナリストとして独立。難しい経済と複雑なお金の仕組みを、生活に根ざしてわかりやすく解説することに定評がある。著書に『隠れ貧困』(朝日新書)、『10年後破綻する人、幸福な人』『投資なんか、おやめなさい』(共に新潮新書)、『年金だけでも暮らせます』『保険ぎらい』(PHP新書)、『最強の相続』(文春新書)など多数。テレビ出演や雑誌連載も多い。

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