株価上昇
肥料や化学品のメーカー、多木化学は10月、マツタケの近縁種のキノコ「バカマツタケ」の完全な人工栽培に成功したと発表した。と言っても、このキノコを今まで聞いたり食べた記憶のある人はあまりいなかったのでは。これまでは天然物はスーパーなどの店頭ではほとんど流通しておらず、産地でもマツタケと混同されているケースもあったという。
このバカマツタケ、マツタケの単なる「偽物」ではなく味や香りは本物と同等かそれ以上とされる。マツタケはいまだに人工栽培の技術が確立しておらず高級食材であり続けてきた。こちらのバカマツタケが人工的に量産できれば、ほぼ同じ味わいを季節と関係なく身近に楽しめるようになる。
シイタケなど現在栽培方法が確立しているキノコの多くは「腐朽菌」に分類され、腐った木に菌を植え付けて発生する。培養する条件を整えやすく栽培が容易なことから、比較的安価に流通しているという。
ただ、バカマツタケはあくまで生きている木から栄養をもらい成長する菌根菌の一種。秋津さんによると、人工的な環境で育成するには野生で共生している植物とどのようなやりとりをしているか突き止めないと、発生に必要な条件が導き出せないという。
ちなみにトリュフやポルチーニといった海外産キノコも生きた木と共生するタイプ。やはり完全な人工栽培方法が確立していないことから高級品として珍重されているという。秋津さんによると、菌根菌でも例外的にホンシメジは人工栽培が確立している。
●3年後の商品化目指す
今回突き止めたバカマツタケの具体的な成育条件は「企業秘密」(秋津さん)だが、4月には3カ月の培養期間を経て長さ9センチ、重さ36グラムのバカマツタケを収穫した。その後も育成に成功、秋津さんもその1本を味わってみた。「素材(の味)を重視して焼いて食べたが、香りの強い天然物と同じ味わい」(秋津さん)。
今後、多木化学は自社生産に向けて準備を進め3年後の商品化を目指す方針だ。季節と関係なく生産できるため価格は天然のマツタケより安価になるとみられ、品質も安定し虫の混入も防げるという。
今回の栽培成功は他のキノコの専門家からも評価の声が上がる。一般財団法人・日本きのこセンターの菌蕈研究所(鳥取市)の長谷部公三郎所長は「生きた植物無しでの菌根菌の栽培はこれまで難しいとされてきており意義がある。木から供給されている栄養を(特定して)与えることができたのではないか」と話す。「消費者にさえ受け入られれば、マツタケが欲しいなと思ったときに比較的簡単に入手できるようになるだろう」。
秋津さんは当面、バカマツタケ生産の研究に専念するが「(この技術を)適用してマツタケの人工栽培の研究にも挑んでみたい」と意気込む。